命を守ってもらった高台で、今度はみんなを守りたい。松川浦の景色を望む海遊の宿はくさん。

2021年3月11日で、東日本大震災からちょうど10年となります。
私たちが暮らすこの福島県でも数多くの命が失われ、また原発事故など未曽有の危機にさらされたことで、さまざまな不安を抱えることになりました。
決して一言では語り尽くせないような思いを、県民ひとりひとりが抱えたであろうこの10年。
ふくラボ!では、震災で大きな被害を受けた方を訪ね、そのお話とともにこれまでの月日を振り返っていきます。(編集:なな丸)

  • 更新日:2021/03/04
  • 公開日:2021/03/04
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津波を眺めるしかなかった3月11日。

▲海遊の宿はくさんを経営する、坂脇さんご一家(左から次女の正子さん、女将の米子さん、オーナーの忠雄さん、長女の以津子さん)

相馬市にある「海遊の宿 はくさん」は、松川浦を一望できる高台に立地しています。眺望のよさや長期間掛けて再開したこともあり、2020年10月25日にオープンした直後から、話題になっているようです。
はくさんを経営しているのは、坂脇さんご一家。オーナーの忠雄さんと女将の米子さんを中心に、ご夫妻の娘である遠藤以津子さんと鈴木正子さんもスタッフとして働いています。


もともと「白山荘」として民宿を営んでいましたが、震災による津波で建物の1階部分に被害を受けました。

米子さん「大きな地震の後には津波が来るから・・・と聞いて避難したんですが、すぐに戻れると思っていたのでスマホだけ持って行ったんです。でもその後には黒い大きな波がやって来て、建物や車が流される様子を見ることになってしまいました」

幸いにも、ご一家はみなさん無事に避難。その後、県内や隣県の身内を頼っての避難生活が約1年間続きました。
2011年6月には被災した白山荘を解体。立ち会った忠雄さんと米子さんは、こみ上げる寂しさを抑えられなかったそうです。その後も営業するつもりはなかったため、合わせて廃業手続きも済ませていました。

高台に再建して迎えたリニューアルオープン。

▲松川浦に面した高台にそびえる「海遊の宿 はくさん」

そうして区切りを付けた一方で、忠雄さんの心中には接客業に取り組んでいたときの楽しさや大勢の人々と関わった思い出が残っていました。

忠雄さん「避難当時は運送や警備などの仕事も経験しましたが、折に触れて旅館に来てくれたお客様の笑顔を思い出していたんです。接客業を経験した方には、この気持ちが分かるんじゃないかなぁ」

もう一度お客様と笑顔で会いたいと思い始めた忠雄さん。まだ50代だったこともあって「もうちょっとだけ頑張ってみよう」と再開を目指すことになったのです。
そこでまず考えたのは「安心安全の宿」として旅館を建て直すことでした。

忠雄さん「憩いの場としてはもちろん、何かあったときの避難場所としてみんなを守れるようにしたかったんです」

再建場所として選んだのは、震災当時に命を守ってもらったあの高台。かつての建物の裏山に新館を建てることにしたのです。
しかし工事を依頼しようにも、地元の建設会社は復旧作業で多忙なところばかり。そのうえ土地の問題などもあり、建設準備が滞ってしまったそうです。

米子さん「さまざま問題が重なって何度も止まったり戻ったり・・・。当時はすごくやきもきしていましたね」

その状況に苦しみながらも、何とか再建することができたはくさん。2020年10月25日には、9年越しのリニューアルオープンを果たしました。

3階のカフェから望みたい松川浦の素晴らしい景色。

▲施設3階の「カフェスマイル」店内とフードメニュー

さまざまな思いが形となり、ようやく迎えられたオープン当日。しかし実際は余韻に浸る間もなかったのだそうです。

米子さん「建設工事がギリギリになってしまい、バタバタした中でオープンを迎えることになったんです。さらに新型コロナウイルス感染症が流行していて不安もありました」

しかしグランドオープン記念企画には、なんと約800通もの応募が殺到!抽選で当たった12組を1泊2食付き2,020円で招待するだけに、大きな注目を集めたようです。
ご一家では抽選で外れてしまったすべての方に返信し、キャンペーンなどでお得に泊まれる方法も紹介。その真心対応が、お客様の宿泊をより心地よいものにしているのでしょうね。

リニューアルした旅館は、何と言っても太平洋を一望できる点が魅力!お部屋やお風呂からも松川浦の絶景が望めます。3階に併設されたカフェでは、水平線を横目にパンやケーキも味わえるのです。

忠雄さん「松川浦の景色はとても素晴らしいので、ぜひたくさんの方に見てほしいですね」

そのほか地元の幸を使ったお料理、焼きたてパン、可愛らしいスイーツなど、食べ物も見逃せないポイントとなっています。

編集後記

現地に着いた瞬間、余りのロケーションのよさに声を上げてしまいました!目の前一面が真っ青な海!取材当日は天気もよく、キラキラと輝く水面がとってもキレイだったんです。館内に入ってもその感動は終わらず、大きな窓からは広々とした太平洋が望めました。

坂脇さんご一家にお話を聞いていて感じたのは、みなさんの仲のよさ!朗らかな笑顔が素敵でとてもあたたかく「お客様は何度も宿泊に来たくなっちゃうだろうな」と想像してしまいました。

再建に関しては大変ご苦労されたとうかがいましたが、負けずにオープンしてくれてよかったと思います。
はくさんから見る雄大な海の景色を多くの方に見てもらい、再建に掛けた思いを感じてほしいです。

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